2020.02.28 インストラクショナルデザインとは?企業研修にいま何が求められるか
インストラクショナルデザインとは、高い学習効果が得られる教育の内容を、理論やモデルなどシステム的なアプローチを行うことにより設計することです。
近年、多くの企業がインストラクショナルデザインを取り入れたeラーニングによる企業研修を開発し、実施するようになっています。
この記事では、インストラクショナルデザインの概要、手順、および実践するポイントについてご紹介します。
- INDEX
インストラクショナルデザインとは
インストラクショナルデザインとは、企業研修などの教育の場において、高い学習効果が得られる教育の内容を、システム的なアプローチによって設計することです。「インストラクショナル(instructional)」とは「教育」を、「デザイン(design)」は「設計」を意味します。
従来の教育は、「勘と経験と度胸」の略称である「KKD」と呼ばれることがあります。しかし、企業研修が勘と経験と度胸に頼るだけでは、必ずしも高い学習効果を得られるとは限りません。
より高い学習効果、より効率的な学習方法は、科学的な知見に基づき、システム的なアプローチをすることによって実現可能となります。
インストラクショナルデザインができた背景
インストラクショナルデザインの基盤は、第2次世界大戦中に米軍によって築かれました。米軍は当時、大量の新任兵を早急に訓練し、銃の取扱い方をはじめとするさまざまな戦闘技術を習得させる必要に迫られたからです。
戦後になり、米軍が開発したインストラクショナルデザインは、企業や学校における教育に引き継がれました。その後、心理学や情報理論などによる修正を受けながら、現在に至っています。
インストラクショナルデザインの特徴
インストラクショナルデザインが従来の教育内容と大きく異なる点として、以下のようなことがあげられます。
- 学習意欲を高めるための動機づけ行う
- 目標を長期記憶として「理解」することでなく短期記憶としての「行動」に設定
- 分析・評価を徹底して行う
また、インストラクショナルデザインにより、企業研修などを設計する手順として代表的なのが、「ADDIEモデル」です。詳しくは「インストラクショナルデザインの手順」でご紹介します。
インストラクショナルデザインが注目されるのはeラーニングが普及してきたから
近年になり、eラーニングが普及してきたことから、インストラクショナルデザインは改めて注目を集めています。
eラーニングはこれまでの教育方法とは大きく異なり、講師と受講者は直接向き合いません。そのため、講師が受講者の反応を目で見たり、肌で感じたりすることが難しく、「KKD」に頼った教育を行えないのです。
そこで注目されるようになったのが、効果的な学習を行うための客観的な方法論であるインストラクショナルデザインです。
eラーニングの教材の多くは、このインストラクショナルデザインの理論を活用して開発されています。
インストラクショナルデザインにより可能となること
インストラクショナルデザインを企業研修に活用することにより、以下のようなことが可能となります。
研修の内容をより実践で活かせるようになる
インストラクショナルデザインにより設計される企業研修は、単に知識やスキルを習得することを目的としたものではありません。研修で学んだ知識やスキルを、実践で活かすことを目的としています。したがって、従来の企業研修と比較すると、受講者の実践的な習熟度がより高まります。
ガニエの学習成果の5分類の例
一例をご紹介しますと、目標設定・設計をする際に参考にしたい考え方(モデル)に「ガニエの学習成果の5分類」というものがあります。
その考え方によると、例えば情報セキュリティといったような規則を身につける「態度」の際には、知識をつけるだけでなく、行動できることが目標になります。
覚えた情報セキュリティの守るべき規則によって、個人情報を明かすことを拒否したり、危険を察知して自発的に防止策を考えたりすることができれば目標は達成です。その目標を達成することのできる研修設計にすることが大事になります。
効率的な研修を設計できる
インストラクショナルデザインでは、上記の「ガニエの学習成果の5分類」や後述する「ADDIEモデル」のような学術的に立証されている要所を捉えた理論・モデルがあるので、それを参考にして設計します。教育を体系的にとらえ、適切な段階を踏みながら学ぶことが可能になり、効率的な研修を設計できます。
近年は、人材不足の傾向にあるため、多忙を極める社員を研修によって長時間拘束することは困難です。インストラクショナルデザインを活用して短時間で高い効果が出していきましょう。
受講者の学習意欲を熟成できる
インストラクショナルデザインを活用した研修は、研修中、あるいは研修後の、受講者の学習意欲を熟成できます。
「動機づけの理論」を用いることで、受講者が高いモチベーションを維持できるように学習プログラムが設計されるからです。
インストラクショナルデザインの手順
インストラクショナルデザインを活用して企業研修を設計するための代表的な理論として「ADDIEモデル」があげられます。
ADDIEモデルは、
- Analysis(分析)
- Design(設計)
- Develop(開発)
- Implementation(実施)
- Evaluation(評価)
の5つの段階を踏みながら、学習プログラムを設計するものです。
以下でその手順を詳しく見てみましょう。
1. 分析
最初に、教育ニーズを分析します。
分析フェーズでは下記のような状況や求められているものなどを捉えていきましょう。
- 研修の必要性や研修の最終目標である行動変容やビジネスへの影響とはなにか
- すぐに必要なものなのか、リーダー育成などの長期的に必要なものなのか
- 前提知識はどの程度あるものなのか
- 現場リーダーの教育意識など連携体制はどうなっているか
こういった状況把握は研修の効果にダイレクトに影響します。誤った認識では目標設定や教材の作り方にブレが出てくるので、しっかり捉えましょう。
2. 設計
分析した内容を踏まえて、学習プログラムの設計に入ります。
教育対象や目標、評価基準、研修のスケジュール、教材をどのようなものにしていくかを設定します。
ここでは、目標の設定が特に重要です。インストラクショナルデザインにおいては、上記した「ガニエの学習成果の5分類」などの理論・モデルを参考にして作ります。目標を、「〇〇を理解する」に留めず、「〇〇を使用して△△ができるようになること」など、具体的な行動を設定することがポイントです。
設計段階では、目標を複数のステップに分解することにより明確化していきます。
3. 開発
設計が終了したら、設計されたプロセスにしたがって開発を行います。
eラーニングの教材を開発する場合には、eラーニングによる学習環境の整備もここで行うことになります。
開発の手法・作り方や目標設定については「eラーニングの作り方と注意点」の記事でも書いているので、参考にしてください。
また、eラーニングにおいては、「アクセスできない」などのトラブルが発生することがあります。
問い合わせフォームを作成するなど、トラブル解消のための施策もあわせて必要となってくるでしょう。
4. 実施
開発した学習プログラムにより、研修を実施します。
eラーニングの場合であれば、ここで、
- 受講状況の確認
- 受講者に対するお知らせの通知
- 発生したトラブルへの対処
などが必要となるでしょう。
5. 評価
研修を実施したら、そのあとに評価を行います。
受講者の習熟度や行動の変化などを具体的に測定し、当初に設定した目標を達成しているかどうかを調べます。
目標を達成していない場合には、問題点を洗い出し、必要に応じて教育プログラムを改善します。
評価手法では有名な「カークパトリックの4段階の評価モデル」というものがあるので、今後の改善点を具体的にするために、参考にして実施するとよいでしょう。
ラピッド・プロトタイピングによるインストラクショナルデザイン
最新情報をできるだけ早く届けるために、上記した「ADDIEモデル」による開発ではなく、「ラピッド・プロトタイピング」という開発手法を選択することも方法のひとつです。開発の途中で仕様の変更が予想される場合などに有効です。
最初から仕様を決めきらずに開発に入ることが特徴で、まずはざっくりとした設計から開発を行い、フィードバックを受け、細かい改善を繰り返し反復して最終的に目的を達成します。
今、インストラクショナルデザインに何が求められているか
学習意欲を高める動機づけを行う
インストラクショナルデザインで重要なのが、学習意欲を高めるための動機づけです。動機づけを行うためには、受講者が「面白そう」「やりがいがある」「やればできる」「役立った」「やってよかった」などと感じてもらえるように、学習プログラムを設計する必要があります。
今すぐ学べる
インストラクショナルデザインを実践する際には、受講者がすぐに学べる環境を整えることが大切です。ただでさえ忙しい業務の中、学習を求められている社員も多く、スキマ時間や、学習意欲が高まっているとき、すぐに学びにアクセスすることで、より高い効果が期待できます。
具体的には、スマートフォンのアプリを使って、すぐに講義を視聴できるようにしたり、講義にタグ付けすることで、学びたいときにすぐに探すことができるようにしたりなど、様々な工夫が凝らせます。レポートを簡単にアップロードできる環境が整えば、レポート提出率も上がり、講義の効果も上がるでしょう。
短い時間で学べる
長い時間を学習に当てることができない受講者も多くいます。空いた時間に少しずつ進められるように講座を細かく区切ることで、学習が中途半端になりにくくなります。このような取り組みはマイクロラーニングとして昨今注目されています。
動画で学ぶ
より学びを理解するためにはテキストだけでなく、動画コンテンツを使うことも有効です。特に作業や使い方を学ぶといった研修の場合、視覚的に見せたほうが伝わりやすい場合があります。
必要なコンテンツは企業、企業の中の部門によっても異なります。それぞれのニーズに応じた、多様、かつ質の高いコンテンツを配信することが重要になってきます。
昨今はスマートフォンのカメラを用いて撮影もできますので、手軽に自社のノウハウをマニュアル化する・貯めていくイメージで動画を集めることをお薦めしています。
長期記憶としての「理解」ではなく、短期記憶としての「行動」
インストラクショナルデザインにおいては、研修の目標を、「知る」「理解する」などではなく、あくまでも「〇〇ができるようになる」のように行動に対して設定します。
企業研修は研修後に、受講者の行動が変化しなければ大きな意味がないからです。
目標を行動に対して設定することは、インストラクショナルデザインのもっとも大きな特徴であるといえます。
昨今はすぐに学んで、すぐに実践できることが求められています。すぐに実践できる教材を作るためにもインストラクショナルデザインは重要です。
できている人から学ぶ
既にできている人から学ぶことで、よりよい行動変容が可能になります。
例えば、実際の業務の中で起きた困った事例や無事解決できたノウハウなどをまとめた資料をどの社員も見ることができるようにしたり、これまでマニュアル化されていなかったことを言語化してコンテンツにしたりするのもよい方法でしょう。
できている人の経験から得たナレッジを社員全体が共有することで、生産性やパフォーマンスの向上が可能になり、ひいては企業の業績アップにもつながるはずです。
分析・評価を徹底して行う
設定した目標は、研修後にそれが達成されたかどうかを、徹底して分析・評価することが大切です。
分析・評価をくり返すことにより、研修の内容を改善していきます。
また、現在行っている企業研修をeラーニング化する際には、現行の研修を分析・評価することにより、それらの研修はそもそも必要なのかを検討することも重要です。
インストラクショナルデザインを詳しく知りたい方は
インストラクショナルデザインを取り入れたeラーニングによる企業研修は、研修の効果と効率を高めるために有効です。
ここまでインストラクショナルデザインについて書いてきましたが、インストラクショナルデザインには専門性があり、アメリカ等では、インストラクショナルデザイナーという専門職があるほどです。
弊社が会員・理事を務めているelc(eラーニングコンソシアム)では「eラーニング・プロフェッショナル」という資格制度を運用しています。今回ご紹介したインストラクショナルデザインだけでなく、企画・開発・運用・評価といった分野の知識、スキルをもつeラーニング専門家を育成し、資格認定するものです。ご興味がございましたら、ぜひお問い合わせいただければと思います。
また、弊社プロシーズでも、インストラクショナルデザインを基にしたeラーニング教材の作成支援を行っています。こちらの記事でも一部ご紹介していますが、企業研修のeラーニング作成にも熟知しております。インストラクショナルデザインを取り入れた研修実施に向けソリューションを提供いたします。
ぜひお問い合わせください。