2022.09.15 近年話題の「ISO30414」とは?11領域49項目の内容と最初にすべきこと
近年、マネジメント層や人事担当者を中心に、「ISO30414」が話題になっています。ただ、このアルファベットと数字の並びが何を指すのか分からないという方も少なくないはずです。この記事では、ISO30414の基本的な解説を中心に、企業への導入を見据えた内容をご紹介します。この機会にぜひISO30414の理解を深め、企業への導入を検討してみてください。
- INDEX
「ISO30414」とは?
まずはこの「ISO30414」とはどのようなものかご紹介します。多くの人にとって耳なじみのない単語かもしれませんが、今後の人事制度の鍵を握る非常に重要な規格になると見込まれています。日本でも次第に導入が始まりつつあるので、これから次第に耳にする機会が増えるはずです。
人的資本に関する国際規格
ISO30414(アイエスオー・サンゼロヨンイチヨン)は、国際的な標準規格を定めている国際標準化機構(International Organization for Standardization、通称「ISO」)が2018年に制定した、人的資本に関する規格です。
人的資本とは、ひとりひとりの人材が企業の中で発揮しうる能力のことを指します。
ISO30414に即して人的資本の管理を行うことにより、どの国や地域にいても同一水準で組織運営を行うことが可能です。
ちなみに、ISOはこのISO30414を含め、世界各国で共通の規格を定めており、国や地域が異なっていても製品や企業運営にばらつきが出ないようにすることを目指しています。代表的なものには、非常口のマークの規格を定めた「ISO7010」や、環境マネジメントシステムを規格化した「ISO14001」があります。
「人的資本」の重要性
「ヒト・モノ・カネの3要素」と言われるように、企業活動において「ヒト」が担う役割は非常に大きいものとなっています。近年では「ヒト」を資本として捉えた「人的資本」の考え方が重んじられるようになってきました。
従業員を単なる労働人員としてみなすのではなく、個々人がもつスキルや特性、資格までもを資本として考えるため、各々に最適な投資を行うことが非常に重要になっています。
人的資本を適切に管理し、最大限伸ばしていくための規格こそが今回ご紹介する「ISO30414」なのです。
大企業を中心に導入の機運が高まっている
そんなISO30414ですが、これまであまり耳なじみがなかったという方も多いかもしれません。それもそのはず、現時点でISO30414を導入している企業は日本にほとんどないのです。
ただ、世界的にみると特に先進国ではISO30414の導入が始まっており、アメリカではすでに上場企業における認証が義務化されています。また、上場企業以外であってもISO30414を取得する流れが形成されつつあります。
日本でもマネジメント層や人事担当を中心に注目を集めているトピックなので、日本でも導入の流れがくるのもそう遠くはないでしょう。
早めに準備をして、時代の流れに乗り遅れないようにすることをおすすめします。
ISO30414の導入で期待できる効果
続いて、企業運営にISO30414を導入することで期待できる効果をご紹介します。
単に「周囲の企業が取得しているから自社も取得する」というだけでなく、社内外への波及効果も加味して導入を検討したいものです。ここでは代表的な効果を3つご紹介します。
人事を通した経営戦略の強化
企業によっては、人的資本が十分に定量化されていないがゆえに、人材をうまく管理しきれていないことがあります。その点、ISO30414においては人的資本を適切に管理し、公開することが求められているため、必然的に人的資本を定量化して把握することになるのです。
そして、人的資本の定量的な評価と管理によって、経営戦略をより最適なものにすることができます。
近年では「戦略人事」という経営戦略全体を見据えた人事のあり方が話題になっています。
ISO30414を導入し、適切に人的資本の管理を行うことができれば、戦略人事の実行にもつながるでしょう。
コンプライアンスに関する社内意識の向上
現代では、プライバシーの侵害やハラスメント、不正行為などの問題を避けるため、コンプライアンスに関する意識をより一層高めておくことが求められています。
また後でご紹介しますが、ISO30414で定められている情報開示には「コンプライアンスと倫理」という領域もあり、苦情や懲戒処分、外部とのトラブルについての項目もあります。
これらの情報公開を行うことで、社内に対してもコンプライアンスに対する意識の向上を見込むことができます。
情報の公正な公開を促進
ISO30414を導入する際には、幅広い項目や領域についての情報公開を行わなければなりません。そのためISO30414の導入に伴い、公正な情報公開が促進されることが期待されています。特にステークホルダーをはじめとした外部へ適正な情報を開示することは非常に大切です。
ISO30414に関わる項目を公開または改善すべき点を改善することによって、下記のような効果も見込めます。今後人的資本の情報開示が一般的になっていくことを見越し、良い情報を開示できるようISO30414の基準に照らし合わせた改善を行っていくとよいでしょう。
- 投資を呼び込む
- 採用力の向上
- 社員のエンゲージメント向上
- 顧客獲得
- 生産性
情報開示が求められる11項目49領域
さて、ISO30414において情報の開示が求められている11の項目と、それぞれに属する合計49領域について、具体的な項目や領域を挙げながら大まかな内容をご紹介します。ひとつひとつ社内の状況と照らし合わせ、改善ポイントを探してみましょう。
対象となる11領域
ISO30414では、49領域は下記11の項目いずれかに属するように分類されています。
- コンプライアンスと倫理
- コスト
- ダイバーシティ
- リーダーシップ
- 組織文化
- 組織の健康・安全・福祉
- 生産性
- 採用・異動・離職
- スキルと能力
- 後継者育成
- 労働力確保
どの項目も、人的資本を正しく管理し企業を成長させていく上で必要不可欠なものです。いずれかの項目にのみ注力するのではなく、11項目すべてをまんべんなく最適化することがISO30414の取得、ひいては企業の成長につながります。
人的資本にかかわる取り組みを積極的に行っている企業であっても、この内容をいきなり網羅するのは難しいため、ISO30414の項目や領域をチェックシート代わりにしつつ、できる部分から取り組みを行っていくことをおすすめします。
この先は、11の領域に属する49項目をそれぞれ簡潔にご紹介していきます。
なお、領域や項目の詳細内容は、日本規格協会グループが販売している「ISO 30414:2018 ヒューマンリソースマネジメント-内部及び外部人的資本報告の指針」で確認可能です。
コンプライアンスと倫理
「コンプライアンスと倫理」の項目では、社内でコンプライアンス(法令遵守)に関する意識醸成ができているか、またコンプライアンス違反が発生していないかという内容が定められています。
– 違法行為の数とタイプ
– 結審の数とタイプ
– コンプライアンスと倫理に関する研修を受講した従業員の比率
– 外部との争い
– 外部との争いから来る外部監査による発見とアクションの数とタイプとソース
「結審」の数とは、訴訟に関与した数のことになります。もし同様の案件で多数の結審がある場合には、コンプライアンス上なんらかの問題が生じていると考えられます。
訴訟を多く抱えていると、コストの増大やブランドイメージの低下にもつながります。コンプライアンスを遵守し、できるだけ外部との争いを抱えないように努める必要があるでしょう。
コスト
– 総人件費
– 外部人件費
– 平均給与と報酬の比率
– 雇用に関する総費用
– 1人当たり採用費
– 社内外からの採用・異動費
– 離職費
この領域では、人的資本にかかわるコストについて言及されています。人材の管理にかかるコストを明確に算出することは、定量的に人材管理を行う上で必要不可欠です。人材を採用して雇用し、離職者として送り出すまでの一連の流れにおいて、かかる費用を細分化して公表しなければなりません。
ダイバーシティ
– 労働力のダイバーシティ(年齢・性別・障害の有無など)
– リーダー層のダイバーシティ
職場におけるダイバーシティ(雇用機会の均等性、多様な働き方)に関する情報公開が求められている領域です。年齢や性別、障害の有無にかかわらず快適に仕事ができる環境であるかどうか、各項目で定量的に示すことができます。
リーダーシップ
– リーダーシップに対する信用
– 管理する従業員数
– リーダーシップの開発
管理職やマネジメント層に対し、どれくらいの信頼が寄せられているかを測定する領域になります。どんな組織であっても、マネジメント層と従業員の信頼関係がなければ良好な運営はできません。この指標に則った定量的データの収集を通して、適切にマネジメントができているか社内で考えるきっかけ作りにもなるでしょう。
組織文化
– エンゲージメント/満足度/コミットメント
– リテンション比率
エンゲージメントとは、「愛社精神」として扱われることの多い、組織に対する愛着心のことです。現状の組織に対してどれくらい満足していて、どれくらい愛着を持っているか測ることで、より愛社精神を高める施策について検討する機会になるでしょう。
人材の確保比率を示す「リテンション比率」と合わせて、自社への定着率を測る領域となります。
組織の健康・安全・福祉
– けが等のアクシデントによって失った時間
– 業務上アクシデント数
– 業務上死亡者数
– 研修に参加した従業員の比率
この領域では、主に従業員の健康や安全確保、福祉に関わる内容の公表が必要になります。
従業員が健やかに働き続けることができるよう、企業は常にサポートや対策を行わなければなりません。研修の実施や労働災害の減少などを通して、安心して働けるような職場作りを行いましょう。
生産性
– EBIT/収益/売上高/1人当たり利益
– 人的資本ROI
EBITとは、利払い前の税引前当期利益のことで、企業がどれだけ収益を得ることができているか示すために用いられます。その他の項目も、人的資本を活用してどれだけの収益を確保できているか測る指標になっています。
「人的資本ROI」とは、かかっている人件費に対して上がっている税引き前収益の指標で、人的資本がどれだけ企業の収益に貢献しているか示すことができます。
採用・異動・離職
– 空きポジションに適した候補者の数
– 入社前の期待に対する入社後のパフォーマンス
– ポジションを埋めるまでの平均期間
– 企業内で期待される新たな役割への転換期と将来の労働力に対する能力評価
– 社内人材で埋められるポジションの比率
– 社内人材で埋められる重要なビジネスポジションの比率
– 重要なビジネスポジションの比率
– 重要な全ビジネスポジションに対する空きポジションの比率
– 社内異動比率
– 従業員層の厚さ
– 離職率
– 自主退職
– 重要な自主退職比率
– 退職理由
「採用・異動・離職」の領域は人的資本に深く関わる指標が多いため、ISO30414で示されている項目も多岐にわたります。タレントマネジメントがうまく機能しているかといった視点も多く、組織運営において重要な項目なので、留意が必要です。
スキルと能力
– 人材開発の費用
– 学習・開発
– 労働力のコンピテンシー比率
この領域には、従業員のスキルや能力の開発にかかわる3項目が含まれています。
コンピテンシーとは、優秀な従業員に共通する特徴のことです。自社におけるコンピテンシーの把握や、それに沿った教育システムの構築によって、人的資本の価値は向上します。そのため、企業にとっては非常に重要な考え方になるのです。
後継者育成
– 後継の効率
– 後継者のカバー率
– 後継者の準備率
企業を適切に運営し、成長し続けられる状態にするために、必ず考えなければならないのは後継者に関する事柄です。
この3項目は、CEOをはじめとした重要役職の後継者育成ができているかを測る内容となっています。
労働力確保
– 従業員数
– 常勤従業員数
– 外部労働力
– 休職
人手不足が叫ばれる中、労働力確保はどの企業でも重要視されています。
「労働力確保」の4項目では、企業が人材の確保をどれくらい達成できているか測る指標となっています。従業員数の他にも、外部の労働力や休職に関する内容も含まれているため、総合的な労働力のバランスも開示しなければなりません。
ISO30414をこれから導入していくために
日本ではまだあまり導入されていないISO30414。これから導入を行い、人的資本を定量化するためにはどのようなことをすべきなのでしょうか。日本での導入状況と合わせてご紹介します。
日本での導入状況
日本ではまだ浸透しきっているとはいえませんが、ISO30414は今後グローバル企業や大企業を中心に採用が進むとみられています。
日本で初めてISO30414の認証を取得したのは、東京都に本社を置く株式会社リンクアンドモチベーションという企業。日本初であると同時にアジアで初めての認証取得でもあったため、各方面から高い関心を集めていました。世界での取得は5番目とのことです。
今後はこうした事例をサンプルにして、より積極的な認証取得の流れが到来すると見込まれています。この機会に自社でISO30414の認証取得と、人的資本について考えてみませんか?
ISO30414導入のためにすべきこと
さて、実際にISO30414の考え方を社内に導入する際にすべきことには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、初期に取り組むべきポイントをご紹介します。
まずは従業員の意識改革です。ISO30414の基準に基づいて組織運営を行う場合には、まず従業員の意識の変革が必要になります。人的資本を定量的に把握することの重要性や、その結果企業にもたらされる結果について、従業員ひとりひとりが認識している状態を目指しましょう。
次にすべきこととして挙げられるのは、情報を正しく蓄積、公開できるようにするシステムの導入です。ISO30414の認証を取得する際には、社内の関連情報をまとめ、公開できるような状態にする必要があります。紙ベースで情報を管理する場合には、誤った情報を使ってしまったり、情報が記載された書類を紛失してしまったりするリスクがあります。社内の状況に合った管理システムを導入し、日常的な情報管理や情報の公表に備えましょう。
私たちとISO30414について考えていきませんか?
この記事では、主にISO30414の概要をご紹介してきました。ぜひこの記事を読んだことをきっかけに、認証取得を検討してみてください。私たちは、人材のプロとして、企業様の人的資本に関わるご相談を受け付けています。
これから、ISO30414の導入を含め、人的資本の重要性はより増していくと考えられます。来たる時代に備えて、私たちと共に企業の未来について考えてみませんか?